ラストが深い余韻を残す。
「サード」(1978日)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 元野球部員だった高校生のサードは殺人罪で少年院に入る。そこには様々な過去を持つ少年達がいた。サードは入所早々、リーダー格のアキラに目をつけられ乱闘になり個室での反省を促された。サードはそこで自分が犯した罪について反芻する。ある暑い夏の日-----彼はクラスメイトのⅡBとテニス部の少女、新聞部の少女と「この町を出てどこか大きな町に行きたい‥」と話していた。そこでサードは新聞部の少女と、ⅡBはテニス部の少女と初体験を済まし、都会に出る資金稼ぎに売春を始める。
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(レビュー) 荒んだ青春を送る非行少年の心の闇をダークに切り取った映画。
主人公サードはその名が示す通り高校の野球部でサードの守備を守っていた少年である。彼は時々不思議な夢を見るのだが、それが彼の今の心情をストレートに表していると思った。
サードを守る彼は相手チームの選手が次々とホームインしていくのを眺めながら、自分だけが取り残されたような気分になって惨めになる。そして、今度は自分がいくらヒットを撃ってもホームベースが見つからずダイヤモンドをぐるぐると回るのである。どこまで走ってもゴールに到達しない絶望感、出口の見えない閉塞感、他者から置いてけぼりを食らう敗北感。そういった様々な感情がこの夢のシーンには集約されているような気がした。実に暗い青春である。
そんな彼は周囲との折り合いも悪い。他の少年たちとつるまず刺々しい態度をとり、度々喧嘩騒動を起こす。また、面会にやって来た母親、授業参観の作文発表会、慰問にやって来た社会奉仕団体等に対してもぶっきらぼうな態度で突き放す。ある意味では、達観した少年という言い方もでき、同年代の他の子供たちよりも早熟な感じを受けた。
しかし、そんな彼でも性については年相応の好奇心と欲望を見せる。普段の佇まいとのギャップが、こんな顔を見せるのか‥と興味深く見れた。それは彼の回想シーンで振り返られる。
サードは友人ⅡBと新聞部の少女、テニス部の少女と意気投合し、上京するための資金稼ぎのために売春することになる。しかし、始める前に初体験を済ませておきたいという二人に頼まれて、サードとⅡBはそれぞれの少女とセックスをする。これが中々初々しくも赤裸々に撮られている。特に、サードと新聞部の少女の図書室でのエッチは、当人たちの知識がおぼつかないこともあり、イケないことをしているという背徳感に満ちていて、見ているこちらまでドキドキさせられた。結局、二人はそのまま最後まで出来ずに終わってしまうのだが、この未熟さもユーモラスで良い。
キャストでは、なんと言っても新聞部の少女を演じた森下愛子の美少女ぶりが印象に残った。今ではすっかり母親役を演じることが多くなったが、この当時はまだ初々しい。そして、時折大人びた表情を見せたりもする。デビュー間もないにも関わらず大胆なヌードを披露し、この役者根性も大したものである。
一方のサード役、永島敏行も好演している。元々高校球児だったことから抜擢された「ドカベン」(1977日)に続き、再びここでも元野球部員という役どころになっている。思うようにいかない現実にもがき苦しみながら、悶々とした欲望を抱える主人公をナチュラルに体現している。以後、彼は青春映画に立て続けに主演することになる。尚、彼はこの年に数々の新人賞を獲得した。
監督は東陽一。脚本は寺山修二。演出に若干幻想的なタッチが入るのは寺山修二のテイストが入っているからだろう。先述のサードが見る夢や、少年院に護送されるときに出会う祭りの集団など、少しシュールな光景が見られる。また、寝ているサードの枕元にテニス部の少女が現れるシーンは、夢なのか現実なのか判然としない。こうした幻想的なタッチが入り込むのは寺山のテイストという気がした。
また、シュールと言えば、少年院の中には教官を含め一部で明らかに素人と思しき人たちが混じっていた。例えば、サードとアキラの乱闘騒ぎの後に行われる反省会のシーンがある。ここに登場する脇役たちは、セリフも棒読みでどう見ても素人である。全体のトーンから完全に浮いてしまっているのだが、それがかえって半ドキュメンタリーのように見れて面白かった。