田舎と都会の中間の匂いが独特。
「遠雷」(1981日)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルロマンス
(あらすじ) 北関東の地方都市。団地の傍のビニールハウスでトマトを栽培している青年・満夫は、団地の人妻カエデに魅了され彼女が切り盛りするスナックに通うようになる。ある夜、彼女の店を訪ねた後、成り行きで深夜のビニールハウスで関係を持ってしまった。その後、満夫は母親の勧めで見合いをすることになる。余り乗り気ではなかったが、いざ会ってみると相手のあや子とは思いのほか馬が合った。こうして二人は急激に惹かれあっていくのだが‥。
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(レビュー) 農家の息子の鬱屈した青春を周囲の人間模様を交えて描いたドラマ。
ピンク映画を撮ってきた根岸吉太郎の初の一般映画で、登場人物たちの悶々とした性衝動を赤裸々に画面に投射した所に見応えが感じられた。その最たるは度々登場するビニールハウスでのセックスシーンである。地方特有の土着的な匂いをまき散らしながら生々しく切り取られていて、このあたりにはピンク映画で培われてきた根岸監督の経験が活かされているように思った。ロマンチックなセリフも無ければ、ときめきもない。実に即物的なセックスが描かれていてドキドキさせられた。
物語自体は、理想と現実のギャップに打ちのめされながら、それでも前を向いて歩いていこうとする立志のドラマで、若干通俗的な感じも受けたが、芯となる部分はしっかりとしているので最後まで飽きなく見れた。
満夫は人妻カエデと不倫に溺れる一方で、見合い相手・あや子との交際も始める。その後、あや子は道夫の家庭を目の当たりにして結婚など出来ないと言って去っていってしまう。彼女がそう思うのも無理もない話で、満夫の家庭環境には色々と問題が多すぎる。
まず、道夫には愛人宅で堕落した生活を送る愚父がいる。彼は酒と博打に使う金をせびりに度々家にやって来る。また、家庭内では母と祖母の嫁姑の喧嘩が絶えない。これでは仮にあや子がやって来ても、精神的に参っていずれ逃げてしまうだろう。
あや子に逃げられた満夫の気持ちを察すると実に忍びない。このまま家族に縛られていては自分の将来は切り開かれない‥という青年の"独立"に対する不安が手に取るように伝わってきた。閉鎖的な田舎という舞台がその不安をより一層リアルなものに見せている。
ただし、満夫がモテすぎることについては多少引っかかりを覚えてしまったが‥。
満夫は少し尖った性格の青年ではあるが、取り立てて特別な何かを持っているわけではない。むしろ地味で平凡な田舎の青年である。それがカエデとあや子という二人の女性と上手く付き合おうとする所に、何だコイツ虫が良すぎる‥という気がしてしまった。大して娯楽もない地方のベットタウンというシチュエーションでは"さもありなん"という気もするが、感情的にはどうしても彼の心情に擦り寄りがたい。
満夫を演じるのは永島敏行。
「サード」(1978日)で衝撃的なデビューを果たした彼が、ここでも鬱屈した青年をぶっきらぼうに演じている。持ち前の不器用さ、飾りっ気のない素の姿が映画に生々しい息吹を吹き込んでいると思った。
彼以外のキャストも夫々に魅力的であった。あや子を演じた石田えりは、演技はまだまだ固いものの、惜しげもなく裸体を披露し永島とのラブシーンに果敢に挑んでいる。この役者根性は天晴である。
満夫の親友・公次を演じたジョニー大倉の演技も中々に良かった。とりわけ、後半の彼の告白は、土砂降りの夜の学校という薄暗いシチュエーションと執拗なロングテイクによって、息詰まるようなシーンに仕上げられている。
他に、満夫の父親を演じたケーシー高峰、カエデの夫を演じた蟹江敬三の妙演も作品に上手く緩急をつけていた。
根岸監督の演出は堅実にして端正である。まるでベテラン監督のようなまとまり方に面白味が欠けるが、安心して見ることは出来る。先述の通り、湿度の高い土着的なエロスにはこの人ならではのこだわりが感じられ、そこが今回の大きな見所となろう。その一方で、あや子の髪の毛に蛍の光が輝くなど、少し洒落た演出も見られて面白い。
ただ、ここまで自然体な演出を貫くのであれば、クライマックスの満夫の行動にも一定のリアリティを持たせてほしかった。そもそも「青い鳥」という選曲自体に違和感を覚えてしまう。確かに意表を突くインパクトはあったが、全体のトーンからすると奇をてらいすぎな感じも受ける。
尚、セリフは所々に面白いものが見つかった。「嫁は角の無い牛」「子どもができたら女はおしまい」etc.
原作は立松和平の同名小説である。これらは原作にある物なのか、脚本・荒井晴彦によるものなのか分からないが、所々に印象に残るセリフが見つかった。また、全編セリフが訛っているのも地方らしさが出ていて良かったと思う。