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シュラム 死の快楽

ブットゲライトの狂った感性が存分に出た怪作。
「シュラム 死の悦楽」(1993独)星3
ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 一人の男が自室で今際の際にあった。外では一人の女性がドアをノックしている。そして男の傍には死体が転がっていた。男の名はロター。彼は数時間前にやって来た二人の伝道師を殺害したのだった。血痕を隠すために壁をペンキで塗っていたところ、梯子から滑り落ちてしまったのである。ドアをノックする女とは只ならぬ関係にあった‥。

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(レビュー)
 口紅の殺人鬼と呼ばれた男の心の闇を、現実と過去と幻想を交えて描いたサスペンス作品。

 ドイツのブッ飛び監督J・ブットゲライトのめくるめく倒錯ワールドが見る者を圧倒する怪作で、同監督作の「ネクロマンティック(特別編)」(1995独)ほどのテンションは流石に感じられないものの、目を覆いたくなるようなえげつない描写が度々登場してくる。そういう意味では、見世物映画としては十分の出来栄えである。

 物語はロターの回想で綴られていく。尚、この映画は極端にセリフが少ないため、彼の真意は安易には把握できない。彼がいかにして屈折した情欲を抱えた殺人鬼になってしまったのか?その理由は彼の異常な行動から推察するほかない。

 ロターはかつてマラソンランナーだった。しかし、事故か何かで右足を負傷してしまい、今は部屋に閉じこもって暮らしている。そして、彼はその孤独をダッチワイフと馴染みの娼婦で解消している。風呂場でダッチワイフの掃除をするシーンは実に惨めで、彼の孤独感を印象的に物語っている。
 しかし、後から分かるのだが、実は彼は娼婦を抱くことが出来ない不具者なのである。娼婦を睡眠薬で眠らせて自慰にふけるだけなのだ。

 思うに、ロターは心のどこかで女性というものを過剰に神聖化してしまっていたのではないだろうか。汚れた存在である娼婦を抱けないのには、そういった理由があるからだと思う。そして、この葛藤は憎しみへシフトし、結果女性という存在そのものに対する畏怖と嫌悪にまで発展していった‥。そんな風に想像できた。
 それを最も具現化したのが、彼が幻視する女性器の化け物である。これは正に女性に対する畏怖や嫌悪からくる彼の深層心理が生み出した怪物であろう。閉ざされた部屋の中で日々、こうした妄想に悩まされていたロターの葛藤はかなり深いように思う。

 ラストは当然ロターに断罪が下る。部屋を訪ねてきた罪もない二人の伝道師を殺害したのだから当然だろう。ただ、犯行当時、彼は精神的にかなり追い詰められており、正常な思考が出来なくなっていたように思う。その証拠に彼は壁に飛び散った血を隠そうとしてペンキで塗ろうとしている。ペンキが剥がれれば血塗られた罪は白日の下に晒されるわけだが、彼はそれすら想像できないほどに狂ってしまっていたのだ。彼を擁護する気はないが、余りにも愚かで憐れな狂人と言わざるを得ない。

 このラストは彼の深い心の闇を見事に捉えていると思った。ただ、表現の仕方については疑問を禁じ得ない。ここまであからさまに教条に走ってしまうと陳腐にしか見えない。また、その後に続く娼婦の顛末も作品の切れ味を落とし、蛇足以外の何物でもないだろう。

 ブットゲライトの演出は今回もかなりブッ飛んでいる。抒情的なフレーズと下品なビジュアルの融合は相変わらずで、彼本来の資質は十二分に感じられた。
 今回は現在と過去、現実と幻想の交錯が横溢し、かなり複雑な構成になっている。普通ここまでカットバックが頻繁に行われると作品自体が散漫になってしまうものだが、今作は全体のトーンが不穏な空気感で統一されているのでそれほどバラバラな印象は受けなかった。このあたりの構成力、演出にはブットゲライトの実力が感じられる。

 尚、最も印象に残ったシーンは、草原で娼婦と戯れるシーンと夜霧をまとうダンスシーンだった。これらには陶酔的な美しさが感じられた。
 一方、見世物的な残酷シーンでは、目玉をくり抜かれるシーン、陰茎に釘を打ち込むシーンが視覚的にも心理的にもかなり痛かった。
[ 2012/08/13 19:48 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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