パワフルなゲテモノ映画。犯罪者の異常な心理をA・ウォンが体現!
「八仙飯店之人肉饅頭」(1993香港)
ジャンルホラー
(あらすじ) マカオの食堂で働くウォンは、借金苦から人殺しをした逃亡犯である。彼は賭け麻雀のトラブルから店主を殺害し店を自分のものにした。その後、警察は海岸でバラバラ死体を発見する。検視の結果、警察はウォンを犯人だと睨むのだが‥。
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(レビュー) マカオで実際に起こった猟奇殺人事件を題材にした見世物ホラー映画。
本作は香港に猟奇映画ブームを巻き起こしたエポック・メイキングな作品である。そのバイオレンス描写たるや凄まじい。今見てもかなり過激で、人肉饅頭というネタ自体もセンセーショナルである。しかも、実話をベースにしているという所も恐ろしい。
尚、先日紹介した
「エボラ・シンドローム/悪魔の殺人ウィルス」(1996香港)と同じ監督・主演コンビで作られた作品である。
ストーリーはやや一本調子だが、今作の魅力は何と言ってもウォンの犯罪心理にひたすら迫った所にあろう。犯罪者を犯罪者サイドから描く物語はそれだけで一つのドラマ足りうると思う。それは我々が日常生活の中では決して触れることができないミステリアスな部分だからだ。
とりわけ中盤以降、逮捕されたウォンの過酷な運命の中に、狂った犯罪者の心理を見い出すことが出来る。
彼は、警察の強引な追求、刑務所の囚人たちによるリンチによって、肉体的・精神的に追い詰めていくようになる。その描写はとにかく凄まじい。縛られて暴行されたり、便器に顔を突っ込まれたり、水道水を注射されたりetc.そして、この地獄に耐え切れなくなったウォンは、ついに自分の手首の動脈を食いちぎって自殺しようとする‥。見ていてかなり不快感を催すが、この部分もやはり実話を元にしているのだろうか?少なくとも今の日本では考えられないことである。
このようにウォンは、来る日も来る日も過酷なリンチを受けながらズタボロになっていく。しかし、その責め苦の中で、彼は決して自分の犯行を認めようとはしない。頑として自分は無実だと主張するのである。ここがこの物語の味噌で、自分には到底理解しえない狂った犯罪者の心理である。自供すれば楽になれるのに、どうして彼は罪を認めようとしなかったのか?自分には最後までその真意を理解できなかった。
また、その一方で、悲壮感漂う姿には憐れみも感じてしまった。いかなる暴虐にも屈しない所に奇妙なプライドが感じられ、アウトロー然とした哀愁も見てしまう。犯罪者にプライドなどがあっても困るのだが、では逆に警察サイドや囚人達の傍若無人な蛮行に問題がなかったか?と言われると、そうではあるまい。
尚、見世物的な醍醐味としては、前半に登場する死体解体と人肉饅頭作り、後半のウォンの回想で描かれる店主一家殺害シーンとなろう。特に、後者は言葉を失うほどの生々しさ、迫力が感じられて度肝を抜かされた。怯える子供たちに対する容赦のない殺戮は見ていて辛いものがあった。
また、ウォン役のA・ウォンの鬼気迫る怪演も忘れ難い。「エボラ~」の狂気的演技も凄まじかったが、本作の方が幾ばくかキャラクターに奥行きを持たせた役作りを行っている。冷酷で非情な殺人者という風貌にリアリティが感じられた。「エボラ~」のいかにもヤクザな風貌とは異なる一見すると普通のオッサンで、それがかえって本当にいそう‥と思わせてくれる。尚、A・ウォンは本作で香港アカデミー賞の主演賞を受賞している。
演出は陳腐な所もあるが、ここぞという所のホラー・タッチは中々堂に入っている。また、かえってこのチープさが一種異様ないかがわしさを醸しているとも言える。
ただ、警察内部のやり取りをすべてコメディ・タッチにしてしまったのはいただけなかった。見やすくしようとする配慮からこうしているのだろうが、最初から最後までそれが続いてしまうと全体のトーンから浮いてしまう。ここは硬軟混ぜて描いて欲しかった。